掲載日 2024.03.14
障害者雇用の最低賃金・時給に関して、一般の雇用と比べて低いというイメージがあるのではないでしょうか。
しかし、実際には障害者の最低賃金は健常者と同じ最低賃金法という法律で守られています。持っている能力が同じなら、誰でも平等に賃金が支払われるような仕組みになっているのです。
また、雇用するにあたって障害者だからという理由で拒否することはできないということになっています。
それなのにどうして賃金が低いというイメージがあるのでしょうか。
その実態はどうなっているのでしょうか。
本記事では、「障害者雇用の最低賃金・時給は?健常者と同じ?」という事柄について、
最低賃金
障害者の平均賃金
最低賃金の減額
を中心に、障害者雇用の賃金が安い理由について、詳しくご紹介していきます。
障害者雇用の最低賃金は、実際には健常者と同じになります。
それがどうしてなのか、
厚生労働省の「障害者雇用実態調査」
障害者の雇用形態と労働時間
という二つの視点から解説します。
厚生労働省の「障害者雇用実態調査」とは、常用労働者(正職員、正社員)が5人以上の民間企業の中から、無作為に抽出した約9,200事業所を対象とした調査です。
民間事業所における障害者の雇用の実態を把握し、今後の障害者の雇用対策の検討や立案に役立てることを目的に5年ごとに実施しています。
障害者雇用実態調査の中で障害者とは、
身体障害者
知的障害者
精神障害者
これに加えて今回から、
発達障害者
も新たに加えられました。
また、雇用の実態とは
雇用している障害者の数
賃金
労働時間
職業
雇用管理上の措置 等
上記の項目に対してそれぞれ、
産業
事業所規模
障害の種類
程度
障害者の年齢
性別
ごとにまとめられています。
調査の対象になる民間企業の産業は、
農業,林業、漁業、鉱業・採石業・砂利採取業、建設業、製造業、電気・ガス・熱供給・水道業、情報通信業、運輸業,郵便業、卸売業,小売業、金融業,保険業、不動産業,物品賃貸業、学術研究,専門・技術サービス業、宿泊業,飲食サービス業(バー、キャバレー、ナイトクラブを除く。) 、生活関連サービス業,娯楽業(生活関連サービス業のうち家事サービス業を除く。)、教育,学習支援業、医療,福祉、複合サービス事業、サービス業(他に分類されないもの)〈外国公務を除く。〉
と多岐に渡ります。
参照元:障害者雇用実態調査|厚生労働省
雇用形態の種類は、
正社員
契約社員
嘱託
パートタイマー
アルバイト
派遣社員
委託・請負社員
などがあります。
また、労働時間の区分は、
週所定労働時間でみると
30時間以上
20時間以上30時間未満
20時間未満
となっており、労働時間の上限に関しては、パート・アルバイト・正社員などの雇用形態に関係なく、労働基準法で「休憩時間を除いて1日8時間以内、週40時間以内」と定められています。
参照元:厚生労働省 労働条件・職場環境に関するルール 2労働時間・休憩・休日(1)労働時間の決まり
この雇用形態と労働時間は法律的には一般の方も障害者も同じになります。
それでは、身体障害者の1か月の平均賃金を例にして、いくらになっているのかを
週所定労働時間別に見ていきます。
通常(30時間以上) 24万8千円
20時間以上30時間未満 8万6千円
20時間未満 6万7千円
これをグラフにすると以下のようになります。
30時間以上と30時間未満で賃金に大きな差がついていることが分かります。
そのため、平均賃金は21万5千円ではあるものの、その賃金で勤務している障害者の数は、実際にはそれほど多くないという見方が出来ると思います。
障害者の賃金を最低賃金と比べる際に、時給制で支払われている場合は比較しやすいです。しかし、月給や日給、出来高払い制などでは、時間額に直して比較する必要があります。
実際に働く際の賃金は、週所定労働時間以外にも
企業
労働条件
業務内容
によっても変わってきます。
また、どんな障害があるのかによっても出来ることが大きく変わります。
障害者の方は、持っている障害の特性に応じて、
かかる負担や責任が軽く、自分のペースで進められる仕事に就いている方が多いということも特徴の一つとなっています。
最低賃金法とは、最低賃金を定める法律です。
最低賃金とは、最低賃金法によって、1時間あたりで定められている最低限度の賃金です。
”国が賃金の最低限度を決めるもの”、とされています。
たとえ障害者であっても、最低賃金以上の賃金が支払われます。
また、会社側と労働者が合意していたとしても、最低賃金額に満たない労働契約は法律上は無効になります。
参照元:最低賃金法(◆昭和34年04月15日法律第137号)
最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度です。
この制度には2種類の制度があります。
参照元:最低賃金制度の概要|厚生労働省
一つは、地域別最低賃金です。
地域別最低賃金とは、
産業や職種に関わらず、都道府県内で働くすべての労働者に適用
各都道府県で、一つずつの最低賃金が決められている
労働者の生計費や賃金、事業の賃金支払い能力などを総合的に判断して都道府県ごとに決定される
もう一つは、特定最低賃金です。
特定最低賃金とは
特定の産業に設定されている最低賃金
最低賃金審議会が調査
地域別最低賃金よりも金額水準を高く設定することが必要と認められた産業に設定される
都道府県別に決められていることがほとんどだが、全国単位で決められている産業(非金属工業1種類のみ)もある
また、二つの最低賃金制度は、毎年7、8月に引き上げ金額を決定し、10月ごろに改定が実施されます。
しかし全く同じタイミングで改定されるわけではないので、特定最低賃金が地域別最低賃金を下回っていることもあります。こういう場合は、高い方の賃金が適用されます。
減額の特例許可制度とは、事業主が最低賃金の減額を都道府県労働局長に申請し、許可された場合にのみ最低賃金の減額ができるという制度です。
以下のような場合に適用されることがあります。
試用期間中の方
基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受けている方のうち厚生労働省令で定める方
軽易な業務に従事する方
断続的労働に従事する方
減額の特例許可制度を利用するには、減額すべき額とその理由を、事業所がある管轄の労働基準監督署に申請し、許可されなければなりません。
障害者雇用の賃金が低い理由は、障害を持つ方ならではの特性による雇用形態と労働時間が原因であることが考えられます。
まず、最低賃金制度では”使用者は、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする”と定められていました。
しかしそのままでは、一般の労働者と比べて労働能力が著しく低い労働者の雇用機会が減ってしまう”ということも考えられます。
その結果、減額の特例許可制度によって、最低賃金が減額されているということが考えられます。
さらに、雇用形態も障害が持つ特性によって、心身や時間的に正社員(フルタイム)で勤務することが難しいという現実があります。
そのため、契約社員やパート・アルバイトで勤務しているという状況になっていると思われます。
正社員勤務と短時間勤務とでは、ボーナスの有無や給与体系が異なるので年収では、大きな差が生じてしまうこともあります。
”障害者だから”ではなく、”障害の特性に応じて出来る仕事の内容が限られている”という理由から、
障害者雇用の賃金も自然と安くなってしまうということが考えられます。
実際、障害者だからという理由で雇用を拒否することは出来ません。
また減額の特例制度が適用されて賃金が減額されていたとしても、適用された業務以外の業務を行う場合は、一般の労働者と同じ最低賃金金額が適用されます。
出来る範囲で下記のような賃金が上がることにも挑戦してみるのもいいかもしれません。
正社員雇用を目指してキャリアアップする
資格を取得して資格手当を得る
好条件の会社へ転職する
これまで障害者雇用の賃金についてお伝えしてきました。
最低賃金は同じであるにも関わらず
減額の特例許可制度が障害の程度に合わせて適用されていること
障害者の雇用形態が、健常者と比べて正社員の割合が少ないということ
労働時間でも、健常者と比べてフルタイムで勤務する障害者の割合が少ないということ
以上の理由から、
障害者だから賃金が安いのではなく、障害者の特性に応じて出来る仕事の内容が限られているから賃金が安いという現状になっているということでした。
障害を持っていても、誰かや何かの役に立ちたいと考えて、行動することは素晴らしいことです。
最低賃金法は、そんな意欲のある労働者を健常者や障害者の分け隔てなく守ってくれる法律です。
どういう産業に就けば、最低賃金は地域別最低賃金よりも高くなるのか。
そういうことに目を向けて、スキルアップを図っていくのも良いことです。
賃金決定条件は企業によって異なりますが、障害者を積極的に採用している企業や昇給の可能性がある企業であれば将来的に賃金が上がる可能性があり、長く働き続けることが出来るのではないでしょうか。